Netflixドラマ『サンドマン』は、ニール・ゲイマンによるDCコミックスシリーズ「The Sandman」を原作とするダークファンタジーです。
当時まだ子供向けのイメージが強かったアメリカンコミックに文学的な要素を取り入れた本作は、新たなファン層の獲得とともに人気となり、グラフィックノベルの創成期を築きました。
本記事では、NETFLIXドラマ『サンドマン』を楽しむための7つのポイントをまとめました
1:原作コミックは世界幻想文学大賞短編賞を受賞
2:主人公ドリームとその兄弟姉妹エンドレス
3:サンドマンの元ネタ
4:モルフェウスの元ネタ
5:モルフェウス三種の神器 砂袋・ヘルム・ルビーのモチーフ
6:歴代サンドマンとの繋がり
7:消えた3つの大アルカナ
原作コミックは世界幻想文学大賞短編賞を受賞
1989年から刊行されたニール・ゲイマン原作による『サンドマン』は、文学的なテーマと巧妙なストーリーテリングで人気を博し、1991年にはコミックブックとしては異例の世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞しています。
世界幻想文学大賞は、歴代受賞者に村上春樹やスティーブン・キングなどが名を連ねるファンタジー・フィクション文学界でも指折りのアワードです。
単行本の序文には、ホラー小説の大家スティーブン・キングや映画ヘル・レイザーのクライヴ・バーカーらが寄稿しており、その人気を確固たるものに押し上げました。
日本語版は、オリジナルの第3巻までのエピソードが刊行(全5巻に分けて刊行)されています。
売れ行き自体は伸び悩み、それ以降の出版は実現していませんが、アメコミの人気が高まる昨今の流れにのって、全巻刊行されることを期待したいです!
主人公ドリームとその兄弟姉妹エンドレス
引用元:IMDb
主人公のドリームは、概念である夢が具現化した存在で、ドリーミングという王国の主人でもあります。
作中ではサンドマンやモルフェウスといった複数の異名をもちます。
とある魔術教団に囚われていましたが、ある事件を機に脱出を果たし、自らの不在によって崩壊した王国の再興のため動き出します。
ドリームには、エンドレスと呼ばれる7兄弟姉妹がいます。それぞれが概念を人格化したもので、それぞれDから始まる名前をもちます。
上から順にデスティニー、デス、ドリーム、ディストラクション、ディザイア、ディスペア、ディリリウム。
サンドマンの元ネタ
アンデルセンの童話に登場するザントマン
サンドマンは眠りの妖精で、ドイツを中心としたヨーロッパ諸国に伝わる民間伝承のひとつです。
一般的に砂袋を持っているとされ、その中は眠気を誘う魔法の砂が入っています。
ドイツ読みでは、ザントマンとなるそうです。
モルフェウスの元ネタ
モルフェウスはギリシア神話に登場する夢の神様です。
父は眠りの神ヒュプノス、母は夜の神ニュクス。
名前の由来はギリシア神話のモルぺウス(morphe)からきていて、「形つくるもの」という意味があり、モルヒネの名前の由来にもなっています。
モルフェウス三種の神器 砂袋・ヘルム・ルビーのモチーフ
本作では、モルフェウスが本来の力を発揮するために、砂袋・ヘルム・ルビーの3つの道具が必要です。
この道具それぞれにモチーフや根拠がしっかりと用意されているので、ファンタジーとしての軸がより強固になっているように感じられます。
1アイテムごとにそのモチーフを考察していきましょう。
砂袋
引用元:IMDb
砂袋は、ヨーロッパの民間伝承に登場する夢の妖精サンドマンの持ち物がモチーフです。
サンドマンは、砂を使って人間を眠りにおとす力を持つとされています。
寝ない子どもへの常套句として「サンドマンがくるよ〜」というふうに使われていたそうです。
ヘルム
引用元:IMDb
ガスマスクのようなモルフェウスのヘルムは、初代サンドマンへのオマージュになっています。
実は、ゲイマン版サンドマン以前からDC世界には複数のサンドマンが存在していました。
なかでも初代サンドマンは、ガスマスクと催眠ガス銃を武器に戦うヒーローでした。
本作のドリームがガスマスクを身につけるようデザインされたのは、初代へのオマージュととらえられます。
ルビー
引用元:IMDb
ルビーは、勝利を呼ぶ石といわれ、身につけたものに勝利をもたらすと信じられてきました。
そのため災いを避ける御守りとして、貴族などの上流階級が魔除けにも使っていました。
歴代サンドマンとの繋がり
DC世界には、本作以前から複数のサンドマンが存在していました。
その影響が本作ドラマシリーズにおいてもみてとれます。
歴代サンドマンとのつながりも物語を楽しむヒントになりそうです
初代サンドマン(ウェスリー・ドッズ)
初代サンドマン(ウェスリー・ドッズ)は、Netflix版サンドマンのヴィジュアルモチーフの一つとなっています。
彼は、緑のスーツにガスマスク姿で、麻酔銃を武器に戦います。
ドリームが幽閉されていた際に、その魂を分け与えられヒーロー活動をしていました。したがって彼自身は人間です。
2代目サンドマン(ギャレット・サンフォード)
2代目サンドマンは眠りの妖精という設定でスタート。
しかし、原作者ロイ・トーマスが設定を変更し、夢の次元に囚われた人間ギャレット・サンフォードとなりました。
3代目サンドマン(ヘクター・ホール)
3代目サンドマン(ヘクター・ホール)は、Netflix版サンドマンの原作となったコミックスにも登場しています。
そのなかで、2代目・3代目のサンドマンは悪夢ブルートとグロブに操られていたという設定が加えられました。
2つの悪夢は、偽のサンドマンを王とした新しい王国を作ろうと画策しますが、モルフェウスによって阻止されます。
3代目サンドマンのヘクター・ホールもその渦中でモルフェウスに消滅させられてしまいました。
コミックスでは、ヘクターの妻リタ・ホールと、その子どもダニエルが、その後の物語に大きく関わる重要人物。Netflix版シーズン2以降でも、リタとその子どもにさらにスポットが当たることになりそうです。
消えた3つの大アルカナ
最後にシーズン1後半から最終話にかけてのキーワードとなる、消えた3つの大アルカナについてまとめてみます。
まず「アルカナ」とはラテン語のarcanumの複数形で「隠されたもの」を意味し、派生して「秘密」や「神秘」の意味をもつ言葉です。
占いに使われるタロットカードもここから名付けられたといわれています
※「大アルカナ」はタロット占いの用語でもありますが、「ゴールト」「コリント人」「水夫の楽園」はいずれもタロットの絵札には含まれていません。
ゴールト(The Gault)
引用元:IMDb
「彼女はシェイプチェンジャーだ。信用のおけるタチではない」
モルフェウス談
ゴールトは、Netflix版サンドマンだけに登場するオリジナルキャラクターです。
原作コミックスではブルートとグロブという2つの悪夢がジェイドの夢に干渉する存在として登場します。
2つの読みを組み合わせると、なんとなくゴールトと読めるような気もします。
コリント人(The Corinthian)
引用元:IMDb
「やはりな。まだつかえるべきドリーマーたちを食い物にしている。」
モルフェウス談
コリント人は、コミックスにも登場しモルフェウスに敵対するキャラクターです。
そのモチーフとなったコリント人はキリスト教を背景とする解釈で「放蕩者・堕落者」という意味をもちます。
洒脱な2枚目の雰囲気でありながら、サングラスで覆われた目の部分が実は口という二面性のあるキャラクター造形は、ダークな雰囲気をもつ本作の中でも特に不気味な魅力を放ちます。
原作コミックスでは、モルフェウスが1度は消滅させたコリント人を作り直すシーンがあるそうなので、今後の再登場も期待できそうです。
水夫の楽(The Fiddler’s Green))
引用元:IMDb
「彼は信用できた。私のせいだ」
モルフェウス談
失踪した3つの悪夢の中で唯一モルフェウスに驚きを与えたのが、水夫の楽園です。あの独善的なモルフェウスから信用されていることからも非常に有能な従者であったことがうかがえます。
水夫の楽園は、もともと船乗りに伝わる迷信で、別名は「フィドラーズ・グリーン」そこは緑豊かな土地で、敬虔な船乗りの魂が死後にたどり着く場所とされていました。
パイレーツ・オブ・カリビアンで有名になったデイビー・ジョーンズと対をなす迷信だったともいわれています。
考察まとめ
DCコミックの中でもとりわけ文学色の強く、世界幻想文学大賞最優秀短編賞を受賞した「サンドマン」
その戦いは、バイオレンスとは一線を引いた知的な駆け引きが中心になっています。
NETFLIXドラマでは、この折衝の緊張感を映像的なアプローチで巧みに表現しており、他のDCヒーローとは異なる英雄譚となっています。
今回紹介した、サンドマンのモチーフやモルフェウス三種の神器、歴代サンドマンとの繋がりを知ることで、この緻密な幻想神話の世界をさらに深く読み解くヒントになれば幸いです。
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原作者ニール・ゲイマンが共同製作総指揮を務めたほか、英国アカデミー賞受賞の作曲家ジェームズ・ハニガンのオリジナル曲による繊細な音楽描写も楽しめる作品になっています。
日本語音声版では、ナレーターを今井翼さん、サンドマンを森川智之さん、デスを南沙良さんが演じ、話題になりました。
『サンドマン』初のオーディオ・シリーズですが、文学的な繊細さをもつ本作の魅力をじっくり味わえる仕上がりです。
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