基本情報
製作:1955年1月15日
配給:東宝
時間:124分
制限:なし
脚本:水木洋子
原作:林芙美子
制作:藤本真澄
高峯秀子
森雅之
ほか
林芙美子の同名小説を高い完成度で映像化した秀作でした!セットの作りこみや主演の高峰秀子の演技など見どころがいっぱい。個人的にはお酒の使われ方も注目ポイントでした。
あらすじ
© 1955 – scanned movie poster made by Toho Company Ltd.
引用出典:映画.com
感想
ストーリー 2☆☆
音楽 3☆☆☆
映像 4☆☆☆☆
キャスト 4☆☆☆☆
※5点満点でつけています。
浮雲の見どころ
浮雲の見どころを3つのポイントにまとめてみました。
・映像で語る奥行きのあるドラマ。
・なにより高峰秀子の演技がいい。
小物も含めた情景で見せる物語の厚みと役者の演技が合わさり、完成度の高いドラマになったいました。70年前の古さを感じさせない映画です。
情景描写が素晴らしい
富岡とゆき子の物語が描かれる1946年の戦後日本の情景描写が素晴らしい。仏印や闇市の出来も見事ですが、特にゆき子がアメリカ兵の女となり暮らすバラック小屋のセットは見応えがあります。
窮屈で陰鬱な当時の空気感をそのまま部屋に閉じ込めたような息苦しさを感じる映像づくりに見入ってしまいました。
セリフで触れられることはないですが、家具のなかに紛れてジョニーウォーカーの印字された木箱が積まれているのも確認できます。アメリカ兵の手垢がたっぷりついた部屋に住まうゆき子の現状を、そういったところでさらっと説明してみせる軽やかさがかっこいいですね。
仏印(インドシナ)にいた頃は飲めていたコアントローなどの洋酒もいまでは手の届かない存在になってしまったのでしょう。ジョニーウォーカーの空き箱が積まれた部屋で粕取り焼酎を飲むわびしさに、帰国後の2人の心が重なります。
あとにも触れますが、間接的な演出によって物語の肉付けをするのがとても上手。作品自体は小説を原作にしていますが、映像で表現することの意義を感じさせてくれます。ありがちな男女の堕落した恋の物語が2時間の映画でも飽きることなく観れてしまうのも納得です。
描かれたもの以上の奥行きのあるドラマ
全編を通して振り返ると、非常に構造的に作られたドラマでした。
2人の人生の状況が、身なりで分かりやすく提示されているだけでなく、空間の奥行きや照明によって感覚にもうったえてくる映像に仕上がっていました。
富岡の実家で廊下の奥から顔を覗かせる母親や、襖をあけ一続きになった畳み部屋の奥で針仕事をする妻のカットが、広々と明るく開放感ある風景として描かれる一方で、ゆき子の住まいは薄暗い一間。
この対照的な構図を利用して、ボタンの掛け違いのように噛み合わない2人の恋路を焦ったくも、たくみに表現していました。
また、履き潰した靴や脱いだ服などモノのみのカットで語ることなく物語を進めてしまう手法は、非常にテンポよく感じました。
男女の営みをスクリーンに移すことなく想起させるなど、映像に映らないことでむしろ情感たっぷりに描かれているのが特に印象的でした。
映像としてスクリーンに映るもの、映らないもの、それぞれの取り扱いも非常に計算しつくされていて、品のよさすら感じました。
なによりも高峰秀子の演技がいい。
先に構造的な感想をかいてしまいましたが、浮雲でもっとも印象に残るのはゆき子を演じた高峰秀子の好演です。
富岡の浮気相手、米兵の街娼、従兄の女とまさに浮雲の如く流転する身の上を丁寧に演じきっていて、これまで述べたような映像表現による場面の変化に身一つで真実味を持たせる演技を見せてくれました。
物語が進むにつれ、まるで人が変わったのかと思えるほどにゆき子は変貌を遂げていきますが、その胸中には捨てきれない富岡への愛が燻り続けていることがありありと見えます。
このままならない女心を細やかな振り幅で表現する高峰秀子をぜひご覧いただきたいです。
浮雲とはなんだったのか
浮雲とは、あてもなく流転する富岡とゆき子の姿そのものです。
敗戦国となった日本に戻り一変した生活への喪失感が、楽しかった記憶への執着として2人を繋ぎ止めてしまったのでしょう。
はたからみれば身を滅ぼすような愚かな恋路に身を投じる男女の悲哀が、一方では唯一の救済だったようにも見えました。
敗戦後の現実に帰ることができず、もちろん過去にも戻れない、寄る方を失った人の有様と虚しさが本作のタイトルからは感じられます。
まとめ
今回は、成瀬巳喜男監督の浮雲を紹介しました。
富岡とゆき子、2つの浮雲の行方はぜひ映画でご覧ください。
1951年に発表された林芙美子の原作小説もおすすめですよ。
このブログが皆さんの映画ライフの一助になれば幸いです。
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