(映画.comより画像引用)
作品紹介
本作『マダム・イン・ニューヨーク(原題:English Vinglish)』は2012年公開。
新人監督ガウリ・シンデーの長編デビュー作でありながら異例の大ヒット!最も成功したボリウッド監督ベスト5に選出られました。さらに、主人公を演じたシュリデヴィは、インド映画史100年国民投票の女優部門ベスト1に選ばれています。
歌とダンスがふんだんに散りばめられた従来のインド映画とは一線を画す演出で、一人の女性が自信を取り戻す再生の物語を爽やかに描いた作品です。
あらすじ
主人公シャシは、夫サティシュと二人の子ども、義理の母となに不自由なく暮らしていた。ただ、彼女以外の家族が話せる英語が苦手なことがコンプレックスだった。お菓子作りは得意で、それを販売することが唯一の楽しみ。しかし、ビジネスマンとして日々忙しく働く夫には、やめるようにと勧められる。次第に自信を失っていくシャシだったが、姪っ子の結婚式のため姉の住むNYに訪れたことをきっかけに、英語を学び、失っていた自信を徐々に取り戻していく。
キャスト
シャシ/シュリデヴィ
サティシュ/アディル・フセイン
航空機の乗客/アミターブ・バッチャン
ローラン/メディ・ネブー
ラーダ/プリヤ・アーナンド
サティシュの母/スラバー・デーシュパーンデー
サプナ/ナビカーコーティヤー
サガル/シバンシュ・コーティヤー
マヌ/スジャーター・クマール
ミーラ/ニールー・ソーディー
ケヴィン/ロス・ネイサン
デヴィッド先生/コーリー・ヒップス
ウドゥムブケ/ダミアン・トンプソン
エヴァ/ルーク・アグラー
ラマ/ランジーブ・ラビンドラナータン
ユリン/マリア・ロマノ
サルマン/スミート・ビヤース
【スタッフ】
監督・脚本/ガウリ・シンデー
音楽/アミト・トリベーディー
ちなみに、監督ガウリ・シンデーの夫は『パッドマン』の監督R.バールキです。
https://komanoblog.com/moive/film-review-padman/
解説
本作は、ガウリ・シンデー監督の母親との記憶がベースになっています。監督の母親はプーヤでピクルスを売っていて、英語は苦手でした。そんな母親に「みんな話せるのに、なぜ母親だけ話せないのだろう」と疑問を感じていたそうです。
作中では、ピクルスがラドゥになっていましたね。
ラドゥ
ラドゥ(Laddu)は、インドの伝統的な郷土料理のひとつです。祝い事やヒンドゥー教の行事には欠かせないものです。材料は、ペサン粉と砂糖と「ギー(Ghee)」と呼ばれる濃縮バター。団子状に成型するときに、カルダモンの香りづけやナッツの飾りつけなど、作り手ごとのアレンジがあります。
インド国内の就学率と英語事情
インドでは、英語が準公用語に指定されていて、人口の約10%の人が英語を使用しています。英語は学校教育でしか習うことができず、教育水準がそのまま英語力の格差になっています。都市部のビジネスマンなどは英語を使いこなしているようですが、それは大学を出たほんの一部のエリートのはなし。インドで18歳以上が通う高等教育の就学率は30%を下回ります(2019年)。さらに、いまだ女性の中等・高等教育の就学率が男性より低いことも分かっています。2000年以降ですら約7割の子どもが高等教育を受けていないことから、シャシの年代の女性の英語学習率はかなり低かったことが想像できます。(参考:india|UNESCO UIS )
シャシの夫サティシュが英語に堪能なビジネスマンでした。シャシは、そんなエリートの妻ですから、英語が話せないことで日常から肩身の狭い思いをしていたことでしょう。娘の三者面談のシーンもそのことを物語っていました。
2人のインド国民的俳優
インド国内を代表する俳優2人のキャスティングも、本作の見どころの一つです。
主人公シャシを演じたシュリデヴィは、ボリウッド映画界にその名を刻む大女優。4歳で子役デビューし、本作公開時は50才。年齢を重ねた美しさをスクリーンで披露してくれています。もう一人のスター、アミターブ・バッチャンは、シャシがNYに飛び立つ飛行機の機内で出会う乗客の男性を演じました。彼もインド映画史100周年国民投票の男優部門でベスト1を獲得しています。インドを代表する2大スターの競演シーンは、コミカルでありながらも、物語の行き先を指し示するような重要なシーンです。
レビュー
見たあと、気持ちがちょっぴり上を向くようなサプリメントムービーでした。インド映画にありがちな唐突なミュージカルシーンがほとんどなく、ある意味見やすい。監督がこだわったという、あくまで主人公の心象を表現する演出として流れるサウンドトラックも、POPで耳心地が良い。ボリウッドの良さを残しながら新鮮なスタイルを作り上げた、新人監督ならではのバランス感覚が素晴らしかったです。
古風なインド人女性と自尊心
本作の主人公シャシは、自他ともに認める古風なインド人女性であり主婦。教育をあまり受けられず、英語が苦手なことに非常にコンプレックスを持っています。そんな妻の気持ちを考えることのない夫の態度には、かなりメンタルをえぐられました。やっと手に入れたお菓子作りというテリトリーすらも無価値同然に扱ったあげく、俺だけに尽くしていればいいといわんばかりの言動。正直書いているだけでもイライラがよみがえってきます。
そんな父の態度を見習ってか、横暴な態度をとる娘もかなり憎らしく演出されていますが、子どもって親を映す鏡なのかもしれませんね。唯一息子だけが偏見をもたずイキイキとしているのが前半パートの救いでした。この彼が、あとでやらかすわけですが。
彼女を支える仲間の存在
NYをおとずれてから、いよいよ自己肯定感の爆上げタイムが始まります。導入として差し込まれるコーヒーショップでのエピソードで沈んだ気持ちも、英会話スクール以降で一気に盛り上がりました。家族だけの小さな世界から、価値観や考えの異なる人とつながった大きな世界を知るという体験が、猛スピードで彼女の自尊心を回復させていきます。
これまで、義母や姉や姪といった比較的近い境遇の女性に支えられていた彼女の世界が、人種や立場の異なるスクールメイトとの交流で一気に広がっていく様子は、痛快でつい応援したくなってしまいます。「自分を肯定する」意識の芽生えが、スクールメイトとの会話にもはっきりと表現されていたのが印象的でした。本筋ではないかもしれませんが、個人的には学校で学べることは知識だけではないなと、あらためて希望をもちました。
結婚スピーチ~静かなる反撃
本作のクライマックスは、なんといっても結婚式でのシャシのスピーチです。ここに物語のすべてが詰まっているといっても過言ではない!とにかく重要なシーンでした。彼女がNYで体験し、感じたことのすべてがスピーチの中に込められています。
あくまで私の解釈ですが、夫や娘たちに対する静かな反撃のようにもみえました。満面の笑みの新郎新婦と対をなすように、苦い顔でうつむく夫と娘が映し出されるシーンは、とても象徴的でした(最後まで己を顧みることのなかった夫に対しては、心の中でガッツポーズです)。これから新たな一歩を踏み出そうとしている新婚夫婦への花向けの言葉にしては、いささかパーソナルな感じは否めませんでしたが、物語の締めくくりとして、とてもスカッとするシーンでした。
結末については、賛否あると思います。作中で解決したのはシャシ個人のことでしかないからです。夫の反省はあったようにも見えますが、反省=改善となるのか疑問です。しかし、シャシが自尊心を取り戻す話としては十分に語られているし、スピーチもそれを物語ってたので、作品としてはまとめられているなという印象でした。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は『マダム・イン・ニューヨーク』解説・レビューをお届けしました。
みなさんの映画を楽しむ一助になれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
おしまい
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