考察とまとめ
本作は、芸人による芸人のための映画といっても過言ではない。
それほどまでに芸ごとへの矜持に溢れた人情ドラマでした。
ここからは一部ネタバレも含みますので、視聴後にご覧ください。
予定調和的ノスタルジー
出典元:映画.com
まずストーリーから感じたのは懐かしさでした。
時代設定からではなく、映画として先のよめる展開、既視感のあるカットや使い込まれたセリフからくるノスタルジーのような感覚です。
たとえば映画ドラえもんを見ている安心感のように期待通りの感動が折り込まれたエンタメ作品に感じるものに近い。
「復刻」された何かを見ているような気持ち。
思い返せば「青天の霹靂」も予定調和的に安心して見れる作品だった。
刺激的ではないが、味わい深い。そんな魅力が本作にも感じられました。
深見・たけしの師弟関係は「松村と柳楽」へ
出典元:映画.com
大泉洋の演じる深見師匠は、お茶目で人懐っこい人柄がハマり役でした。
ときより見せる芸人としての厳しい姿勢とのギャップが、またカッコよかったです。
柳楽優弥の演じるビートたけしも再現度が高く、前評判通りの好演。
柳楽の演技指導のために、たけしモノマネのレジェンド松村邦洋が参加したことも話題になりましたが、モノマネの天才・松本から演技の天才・柳楽へ世代を超えて「芸」が伝承された製作秘話は、深見師匠とビートたけしの関係に重なってみえました。
人から人へと受け継がれる芸能の姿を「映画」という表舞台とその裏の製作過程の両面から表現した監督・劇団ひとりの策略にまんまと乗せられました。
果たしてどこまで狙っていたのか…
柳楽優弥の特殊メイク
どうしても納得できなかったのは、柳楽が演じた老年ビートたけしの特殊メイク。
顔がなんど映っても、ドンキで売ってる被り物にしか見えない。
あそこだけが妙にコントじみていて、演技や演出のメリットを感じられませんでした。
あの顔を見せるくらいなら、あご下までのカットでよかったと個人的には思います。
調べてみると、撮影直前まで若いころのたけしも特殊メイクの予定だったが無しになったようです。
演技のクオリティ次第だったのでしょうか?
経緯はわかりませんが、あの方向性のメイクなら無しになって本当に良かった。
危うくコントを見せられるところでした。
参考:大泉洋、柳楽優弥、鈴木保奈美が『浅草キッド』会見で「コマネチ」を披露【写真あり】
さいごに
出典元:映画.com
師弟の絆を題材に芸能舞台の表と裏を描いた本作では、ネガティブなシーンが少なかったことも印象的でした。
ストリッパーの1人が「インコに餌をやってくれ」とたけしに罵声をあびせるシーンのように、象徴的にブラックなシーンはあります。
(餌ももらえなくなったカゴの鳥は、ストリッパー自身なのでしょう。)
しかしそれすらもタップと音楽で軽快に過ぎ去ってしまう。
ある意味そこに芸事の光と影の深さがあったように思えます。
そのうえで美しく描かれた人情ドラマに、監督・劇団ひとりの芸人へのロマンと北野武へのリスペクトを強く感じました。
さいごまで読んでいただきありがとうございました。
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